「絶望村後編」



「な・なんだこれ・・・」


上空には数え切れないくらいの魔物たちが空を埋め尽くし、いつの間にか村の周りも魔物たちによって包囲されていた。村全体が異質な雰囲気に満たされている。・・眩しく晴れ渡っていた青空も、すっかり暗闇へと姿を変えていた。

・・その村の変化にいち早く気付いたのが僕の母さんだった。母さんは家の玄関の前で魔物たちがひしめく上空を憎しげに睨んでいる。僕は息も絶え絶えになりながら母さんの元に急いだ。



「か・かあさん!先生が・・先生が、殺されたっ!」

「・・・。」

「・・母さん?」


母さんは取り乱している僕が滑稽に見えるくらいに落ち着き払っていた。何か・・恐れていたことが遂に起きた・・という諦観・・・いつかは、こうなる事が解っていたと言わんばかりの落ち着き様であった。そこへ師匠が僕の・・いや、母さんの所に駆け込んできた。



「な、なあ!あいつが・・あんたの旦那さんが、村の外で殺されて・・・こ・殺されていた!」


・・・・・・・え?



「・・・そう。あの人なりに何かを感じ取っていたのね」


父さんが・・殺され・・?


「・・という事は、やっぱりあの啓示通りに・・なってしまったということか。」

「そうね。こうなる事は解っていたけど、まさかこんなに早くだとは・・・ね。」


啓示・・?こうなる事は、わかっていた・・だって?


「だがくえすとは、まだ充分に成長していない・・まだ早いはずだ!」

「・・でも来てしまったものは仕方が無いわ。今はとにかくこの子を・・くえすとを、どこかに隠さなければ」

「わ・わかった!さあ、くえすと!俺が案内するから着いて来い!」

「な・・なんなんだよ。か・かあさん!何でそんなに落ち着いていられるのっ!父さんが・・父さんが殺されたんでしょ?どうしてそんなに平気でいられるの!?」

「訳を話している時間なんて無いんだよ!さあ早く!俺の後をついて来い!」


師匠が僕の腕を強引に掴む。でも僕はその腕を力任せに振りほどいた。


「母さん!応えてよ!応えてってば!」


僕が思い切り怒鳴りつけたその瞬間。ただでさえ禍禍しかった空気がまた一段と捻じ曲がったような錯覚を覚えた。
呼吸が止まる。
そして、僕たちを冷たく射るような暗い声が村中に響き渡った。





さあ、我がしもべたちよ。
獲物を見つけた。
その者の額には天空の印が彫られている。
そいつを殺せ。
跡形も無く焼き殺せ。



・・この声には、聞き覚えがある!さっきの・・そう、ピサロとか言う奴の声だ!

そしてその声が途絶えた途端、気が付けば赤い点のようなモノが僕たちの周りを360度取り囲んでいた。・・いや、点じゃない。それは村全体を取り囲んでいた魔物たちの赤い眼光だった。そしてその狂ったように赤い眼光の波が、僕に向って一斉に襲い掛かってきた!




・・その時。母さんの声が村中に凛々しく響き渡った





「さあみんな、時は満ちた。今こそ17年前、天空の使いにより受けた使命を全うする時!くえすとを・・くえすと様を、命に代えてもお守りせよ!」


その声に呼応するかのように、いつの間に出てきていたのか村のみんなが手に武器を構えて僕の周りを取り囲んだ。まるで・・僕を魔物たちから守るようにだ。大人達に混ざり、その中には僕より小さな子供の姿もある。それに・・シンシアの姿も。



「ちょ、ちょっと待ってよ!僕を守るってどういうこと!?僕より小さい子だっているじゃないか!それに、シンシアだって!僕も・・僕だって戦えるよ!母さん!ねえ、母さん!!」

「くえすと・・いえ、くえすと様。ここは私たちに任せてお逃げください」

「どうして・・どうしてだよ!?僕だって戦える!」

「・・貴方は、この世界をお守りすると言う重責を担っておられる方」

「な・・に?」

「我々は貴方がご立派に成長なされるまで、その御身を守護する命を17年前、貴方のお母様の使者より受仰せつかったのです」

「な・・なん?」

「・・この魔族の手から、貴方を守護すると言う使命を」

「な・何を言ってるのかさっぱり解らない!『くえすと様』って、一体・・何さ!それに、僕の母さんだって?僕の母さんは、母さんじゃないか!」


頭の中に混乱の渦がぐるぐる廻って張り裂けそうになる。何が何だか、解らない・・全然解らない!

・・でも、母さんはそんな僕の疑問に一切口を挟まずに言葉を続ける。



「でもくえすと様が育ちきらない内にその時が来てしまった。・・思ったよりも早く、くえすと様の所在が魔族に割れてしまったのです。ですから・・」

「だから!今はそんな事を言ってる場合じゃないよ!僕は戦うから・・戦うからな・・!!」

「ですから、今は私たちがくえすと様の盾になります」

「!」


その時強烈な痛みを下腹部に感じた。誰かに・・殴られた・・?
誰、だ・・・・?
ぐるん・・と廻った視界をなんとか安定させようと努めると・・・僕の鳩尾に食い込んでいる拳の持ち主が判明した。
・・師匠だった。
どうして・・・



「・・・・な・・・ぜ・・」

「くえすと様はどうか生き残って力を蓄え、魔族の手からこの世をお救い下さい」

「なぜ・・師匠が、僕を・・?」

「貴方を育てて来たこの17年間、本当に楽しかった。私は本当の母親ではなかったけど、それでも育ての親としてせいいっ・・精一杯に」

「か・・・・・・・・。」


だめだ・・このまま・・では、気を失って・・


「・・精一杯、貴方を育てて参りました。そしてくえすと様、貴方はこんなにも優しくお育ちになられました。私の・・私の本当の息子であれば・・どんなに、よかったか・・」


あ・・・・・かあさ・・・・ん・・


「でも、これでお別れです。本当に、本当にありがとうございました」


・・・。

・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。





「さようなら」




気を失う最後の瞬間に、目に浮かんだのは・・

初めて見た、母さんの泣き顔だった




そして僕はその場に倒れた














「う、うう・・ここ、は・・?」


目覚めると、そこは村の地下牢の中だった



「はっ!」


僕はすぐに思い出した!今地上では村のみんなが魔物たちと戦っているんだ!僕も・・僕も早く行かなきゃ!僕は地下牢の扉を蹴破ろうと、力いっぱい蹴り飛ばした!

がん!・・・・・・がん!

だめだ!堅くて僕の力ではどうしようもない!


・・・ん・・・・


聞こえる。何か聞こえてくる・・
みんなの悲鳴・・そして怒号。
・・時折魔物のものらしき悲鳴も聞こえてくるのだが。
どう考えても、みんなの悲鳴の比率の方が圧倒的に多い。

くそ・・どうしてだろう。
どうして僕は、こんな所で一人でいるんだろう。
僕も行かなきゃならないのに。
戦わなきゃならないのに・・。
早く、早く行かなきゃ!

僕は混乱する頭を瞬間冷却させて冷静になろうと努めた。

何か、何か方法があるはずだ!ここから出る方法が・・はやく・・はやくはやくはやくはやくはやく!!




ダンダンダン!


「!!」


地下室に、何物かが下りてくる!



「だ、誰だ・・魔物か!!?」

「くえすと・・くえすと?そこにいるのね?」


シンシア・・シンシアだ!



「シンシア!?ありがとう!僕をここから出しに来てくれたんだね!さあ、早く!この扉を開けて!母さんも師匠もおかしいんだ!子供達やシンシアに戦わせといて僕だけ逃げろって言うんだ!」

「・・・。」

「シンシア?何をしてるんだ!早く!早くしないとみんなが殺されちゃうよ!」

「もうちょっと・・」

「え?聞こえないよ!」

「もうちょっと、君と過ごしていたかったけど。・・どうしようもないよね。」

「え・・?なに?」

「君と遊んだこの17年間、とても楽しかった。でも、それももう・・終わり、か」

「シンシア!訳のわからないこと言ってないで早――

「聞いて」

「・・・。」


それは今まで見た事も無い、シンシアの悲しげな表情だった。僕は何故だかそのシンシアの表情に圧倒されて身動きが取れない。


「時間が無いから、手短に言うね。まずはくえすと・・君はね、人間ではないの。それは私も同じ。私は、ある妖精族の生き残り。君は、天空人と人間との間に生まれた子。でもどちらかといえばお母様の血の方が濃いから、君はほとんど天空人ね」

「・・・。」 


僕が・・天空人?シンシアが・・妖精・・?



「私は17年前・・そう、君が生まれた時に、君を守護する使命を君の『本当の』お母様から仰せつかった。私のこの体は、その見返りの姿よ。そしてその使命を、私はこの村の者たちに伝えた」

「・・・。」 

本当の・・母さん?僕を守護・・見返りの姿・・だって?



「君はこの世を照らす最後の希望の光。いつの日か復活するという『地獄の帝王』エスタークを滅ぼすことの出来る唯一、絶対の光」

「・・・。」 


地獄の・・帝王。
僕が・・最後の、希望・・?



「どうして、君のお母様が君を地上に残して天空に帰られたのか、それは解らない。そしてどうして、君をこんな人目のつかない辺境に残されたのか、それも伺っていない。でも・・今なら分かる気がする」

「・・・。」

「それは悪しき者たちに、君の存在を知られたくなかったから。そして君が立派な勇者に育つまでの時間稼ぎのため。・・私はそう解釈して、この村の者たちに伝えた。どうやらそれは正解だったみたいだけど」

「・・・。」 


何かを・・思い出せそうな気がする。


「でも、それよりも早く君の所在を悪しき者に知られてしまった。あの、ピサロという魔族に」

「・・・。」 


ピサロ・・あいつが・・



「私は三つの使命を君のお母様から授かったわ。一つ目は、君に事の真実を伝えること。君の本当の出生を。君がこの世の最後の希望の光であると言う事を。二つ目は、君にエスタークの存在を教えること。その復活を目論む、デスピサロという男の存在も。三つ目は、緊急の場合・・今の事ね。その時は、私が君の身代わりになって死ぬ事」

「え!?」


そこでシンシアの呪縛が解けた。
僕の身代わりに・・死ぬ!?



「君、良く私の顔を見てたよね。君の視線はいつも感じていたよ」

「死ぬってどういう―――」

「ありがとう。私もね、君の顔が好き。君の視線を感じるのも、とても好きだった。でも、これが最後ね・・見納めよ。見られ納めっていうのは・・変かな?」


シンシアはそう言うと胸の前で不思議な印を組み、聞いたことも無い呪文を詠唱し始めた。すると・・シンシアの姿が一瞬消えて・・・
そして僕がもう一人現われた。
僕がもう一人いる。
いや、僕の姿を模写したシンシアがいる。



「この呪文は君のお母様から使命を仰せつかった時に、人間の姿と共に授かったの」

「シンシア・・君は一体、何をやろうとして・・・・・・まさか。僕の、身代わりって・・?」

「うん。『私』が死ねば、ピサロは『君』が死んだものと思うわ。君はピサロが去った後、この村を出て」

「ふざけないでよ!ぼ・僕が・・僕がそんなことはさせない!」

「そして生きて。生きて生きて生き抜いて、仲間を探して。そして運命に導かれし者たちが集った時、君の真の力は覚醒する。その後の事は、君に託します」

「だめだ!死なせない!死なせるかよ!シンシア、頼むよ!・・そうだ!考えよう!二人で考えよう!きっと何か方法があるはずだから!もっといい方法が!絶対、絶対、絶対に!」

「だめよ。運命は変えられないわ。こうするしかないのよ、わかって」

「何が運命だ!ふざけるな!!自分の身代わりに好きな女の子を死なせる馬鹿が、どこにいる!!」

「・・くえす・・」




そこで・・今まで毅然としていたシンシアの表情が一気に崩れた。今まで我慢していた恐怖が、堰を切ったように流れ出す。今、そこにいるのは・・これから自分に訪れるであろう絶望に怯える、ただの少女だ。




・・そうだ。怖くない筈が無いんだ。



「どうし・・て、今・・そんな事を言うの?」




カタカタと震えながら、シンシアは後ずさって行く。





「どうしてって・・」

「今までそんな事、一度も言ってくれなかったのに。今、好きだなんて言われたら・・よけい・・余計に、辛くなるじゃないの!!」

「・・何回でも言ってやる。そんな馬鹿な事止めさせる為なら、何回でも言ってやる!シンシア、好きだよ!好きだ、好きだ!好きだから行かないでくれ!!」

「止めてよ!止めて止めて!!」

「なあ頼むよ・・初めて見た時から、僕は君のこと・・

「止めて、お願い!」

「・・シンシア。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

「私の・・ね」

「・・え?」

「私の一族も・・ピサロに滅ぼされたの」

「・・・。」

「許せないの、あの男。私は目の前で両親を殺されたわ・・・これ以上ないって位の、残酷な死なせ方で。私に・・見せつけるように」

「・・・。」

「だか、ら・・・だから・・・」

「シンシア・・」

「だから許せなかった・・絶対!絶対に許せなかった!あの男を!!」

「・・・。」


ショックだった。シンシアにそんな暗い過去があっただなんて。いつも明るい笑顔を輝かせていた彼女に、僕の知らないそんな過去が・・



「だから!あの男が思う通りには絶対させない!君を死なせてしまったら、あの男の思うが侭の世界になってしまうから!!」


シンシアはそう叫びながらまた一歩、後ずさった。



「待って、待ってよ!考えよう!考えて!決め付けて絶望しないで!」

「一人生き残って、どうしようかと思った!もう死んでしまおうって、本気で考えた!!」




また一歩、後ずさる。





「落ち着いて!ま・まずはこの扉を開けて!開けられるんだろう!?シンシア!ねえシンシア!」

「でも、君のお母様からその使命を仰せつかった時・・これにすがろうと思ったわ。この使命にすがって、生きていこうって決めたの・・悪い事だけではないわ。そうしたら、君に会えたんだもの!くえすとに・・くえすと!会えたの!!」




後ずさる。





「そうだ!会えた!そして僕は君を好きになった!君が僕をどう思っているか解らないけど!」


ああダメだ!自分で何を言っているのか全然解らない!何を言っていいかさっぱり解らないんだ!止めないと!シンシアを止めないと!



「私たちは恋人よ!姉弟であって、友達であって、家族であって、こいびとっ・・・・・・・・・・・・・・・うう・・くえすと・・私怖い、怖いよっ 死にたく・・ない!私はまだ、生き・・はぐ・・生きて、生・・たい!」




後ずさる。最後の方は嗚咽で言葉になっていなかった。




「そうだ!生きるんだよ!生きていれば何とかなるから!絶対何とかなる!」

「くえすと、聞いて!この地から、ずっと、ずうっと南に、ロザリーヒルという村があるの!そこに行って!そしてロザリーという娘に会って!その娘がピサロの事を良く知っているから!」

「何言ってるんだ!今はそんな事関係ない!さあ早く!この扉を開けて!開けろよ!!」

「・・駄目ね。私はこの使命を誇りに思って生きてきたのに、死ぬ寸前になって・・怖くなるなんて。これじゃあ君の守護役なんて失格だわ」


シンシアの体の震えが止まった。


嫌な悪寒が僕の体を突き抜ける。



「そ、そんなことはどうでもいい!ああ、頼む、頼むよ。シンシア、頼むからここを開けてくれ。頼むよ・・頼むから・・!」

「死ぬのって、こんなにも怖いことなのね。でも・・行かなきゃ」




後ずさる。




「行くなよ!!と・止まって。まずは・・・・まずは・・・・まずは・・・・・・・・・・・・そう!深呼吸するんだ・・ね?そ・そうすれば、そうすれば落ち着くよ、馬鹿なことは考えなくなる!さ・さあ・・」

「ねえ」

「・・なに」

「私の名前を呼んで」

「え?」

「呼んで、お願い」

「シンシア?」

「もっと大きな声で!」

「し・シンシア!」

「うう・・・・お願い。もっと大きな声で」

「シンシア!・・シンシア!シンシア、シンシア!!」


僕は目を瞑り、あらん限りの力を振り絞ってシンシアの名を叫んだ!
まるで、そうする事で奇跡を起こそうとしているかのように!



「ありがとう・・」

「シンシア!シンシア!・・シンシアシンシアシンシアシンシアシンシア!!」








「ありがとう、勇気が出た」




「・・え?」








「ばいばい」












僕が目を開けた時


シンシアはもう、そこにいなかった






ああ・・このままだと。


このままだと本当に・・


本当にシンシアが死んでしまう


これから・・


どうすればいい?


どうすれば


どうすればいいんだよう


一体・・どうすれば!


シンシアを助けられるんだ!!




gg・・gy・・gg・・・g・!!




!!


何か、聞こえる!



cvt!!

zgggvv!!!!!!!



魔物の声か・・?



vfq!!gggvvv!!

jkgb!!dbb!!

gg・・gy・・gg・・・g・!!



もしか・・して?


シンシア


本当に、魔物に・・殺されに?





ああ・・やめろ。


やめろ、やめろ!







gg・・・g・!!gg・・gy・・gg・・・g・!!gg・・gy・・!!!!!vfq!!gggvvv!!jkgb!!dbb!!swk!!!cvt!!zgggvv!!!!!!!gg・・gy・・gg・・・g・!!gg・・gy・・!!!!!vfq!!gggvvv!!gg・・gy・・gg・・・g・!!gg・・gy・・!!!!!vfq!!gggvvv!!jkgb!!dbb!!swk!!!cvt!!zgggvv!!!!!!!zgggvv!!!!!!!gg・・gy・・gg・・・g・!!gg・・gy・・!!!!!vfq!!gggvvv!!gg・・gy・・gg・・・g・!!zgggvv!!!!!!!gg・・gy・・gg・・・g・!!gg・・gy・・!!!!!vfq!!gggvvv!!gg・・・g・!!gg・・gy・・gg・・・g・!!gg・・gy・・!!!!!vfq!!gggvvv!!jkgb!!dbb!!swk!!!cvtgg・・gy・・gg・・・g・!!gg・・gy・・!!!!!vfq!!gggvvv!!gg・・gy・・gg・・・g・!!zgggvv!!!!!!!gg・・gy・・gg・・・g・!!gg・・gy・・!!!!!vfq!!gggvvv!!gg・・・g・!!gg・・gy・・gg・・・g・!!gg・・gy・・!!!!!vfq!!gggvvv!!jkgb!!dbb!!swk!!!cvt!!!!!!!!!!!!!!!








・・一瞬、何かが弾けるような爆音が地上で響いて

魔物たちの咆哮と歓声が鳴り響くと

暫くして辺りは




全くの静寂に包まれた









ぷつり




何だ・・今の音は・・


俺は床に座り込んだ

立ち上がって扉を開けてみる

なんとなく開くような気がした


扉は簡単に開いた

階段を上る

外に出た




・・やけに静かだ

血しか見えない




ぷつり




・・まただ。

また変な音がした。

・・どこから聞こえた?





・・・魔族たちはもう撤退したようだ


家に行ってみよう




朝、母さんが作ってくれたスープが残っていた

飲んでみる




朝、ほんの数時間前。

このスープを作っていた、母さんの後ろ姿が目に浮かんだ

毎朝見る事が出来た、幸せな光景。




ぷつり





・・うるさいなこの音


足元にナニカがあった

人の死体だろうか

何かを大事そうに抱えている




ペンダント?




・・ああ、これは子供の頃、シンシアに渡せなかったやつだ


恥ずかしくて渡せなかったから、母さんにあげたんだっけ




じゃあ、これは母さんの死体か

一瞬何かと思った

真っ黒なんだもんな・・わかるわけがない




ぷつり




そのペンダントを持ち、村を見渡してみる

あちこちに散らばっているものも多分「誰か」なんだろう

でも誰なのか全然判別できない


・・ん?


今、なにかが視界の隅に見えた気がした




ぷつり




シンシア!?




ぷつり




間違いない!いつもシンシアが寝そべっていた「花畑であった所」にシンシアがいる!




ぷつり




ああ!鬱陶しいなこの音!


シンシアのもとに駆け寄る!




でも




ぷつり




そこには




ぶつり




俺の姿をしたシンシアの





ぶつり






上半身だけしかなかった







・・・。




ぐにゃり




あまりの怒りに、視界が歪んだ。





・・・。


シンシアは何かを掴んでいる

魔物の死体の欠片だった

そうか・・

シンシア、一匹道連れにしたか。




俺はシンシアを抱き上げた


・・・・・。


眠ってるみたいじゃないか。


本当に死んでいるのか?


なあ




・・・・・・・。







変な気分だな。

頭に来て頭に来てしょうがないのに

なんだかやけに、心が静かだ




ん・・・なんだこの木の芽は。

あれだけの惨劇の中で、この芽だけ生き残ったというのか。

なんか


まるで、今芽吹いたみたいだな




・・そんな筈無いか






俺はしばらくシンシアを抱きしめた後


手にペンダントを握らせて


木の芽の傍の土にシンシアを埋め






この絶望の村を後にした

















「ピサロ」














「ピサロ、殺してやる」


      





       


                「ピサロ、殺してや     る」










              「ピ    サ ロ、殺  して      やる」









「ピ     サロ  、殺 し      てや           る 」

         






    「ピ            サ  ロ、殺   し                           て                          や      る  」














「ピ       サ       ロ       、       殺       し       て       や       る       」




  
 







ピ    サ    ロ    、    殺  し    て    や    る
   







そう




何度も呟きながら





続く

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